2022年3月2日
この記事の作成者:
食品生命科学科
守口 徹、原馬 明子
先月までは,動物の生態や進化など動物の状態を中心にしたお話でしたが,今月は私たち自身の身体や食事,栄養にスポットを当てたお話を紹介しようと思います。
私たちには生きていくうえで,三大栄養素(エネルギー産生栄養素)の炭水化物,たんぱく質,脂質が欠かせません。そのうちの「脂質」にはどのような働きがあるか知っていますか? カロリーが高いという理由で敬遠されがちの脂質ですが,身体には約15%(固形分として約40%)存在し,ホルモンの材料や細胞膜の構成成分など,身体を形作るために脂質は必要です。大切なのは,エネルギー源以外の生理作用を持つ脂質(油脂)を見極めて,摂取することです。
油脂には,常温で固まりやすい二重結合がほとんどない脂肪酸(飽和脂肪酸,一価不飽和脂肪酸(オメガ9系脂肪酸))を多く含む油脂と,冷やしても固まらない二重結合をたくさん持つ脂肪酸(多価不飽和脂肪酸(オメガ6系脂肪酸,オメガ3系脂肪酸))が多い油脂の大きく2種類に分けられます。また,多価不飽和脂肪酸は体内では作れないので,食事から摂取しなければいけません。しかし,摂り過ぎは禁物です。成人の脂質の1日摂取の適正量は50~70gと言われています。商品に記載されている「成分表示」の「脂質」を確認してみてください。知らず知らずのうちに,以外に多くの油脂を摂取していることに気づくと思います。
オメガ6系は植物油に多く含まれ,調理油や加工食品などいろいろな食品に使われているので,普段から十分摂れています(過剰気味に!)。商品の「原材料名」に“食用油”や“植物性油脂”とあれば,それはほぼオメガ6系脂肪酸のことです。しかし,オメガ3系は魚介類や限られた植物油(えごま油,アマニ油)にしか含まれないため,不足しがちです。
みなさん,最近,お魚食べていますか??
オメガ6系脂肪酸にはリノール酸やアラキドン酸,オメガ3系脂肪酸には,DHA(ドコサヘキサエン酸),EPA(エイコサペンタエン酸),α-リノレン酸などがあり,オメガ6とオメガ3の脂肪酸はシーソーのような関係で,オメガ3系脂肪酸の摂取量が少なく,体内のDHAやEPAが減少すると,それを代償するようにオメガ6系脂肪酸が増加します。また,体内では真逆の作用を示し,オメガ6系脂肪酸は,血液粘度を上げたり炎症を亢進させる働きがあり,オメガ3系脂肪酸には,血液粘度を下げたり,抗炎症作用や脳機能の維持などがあります。このことから,オメガ6系脂肪酸に偏り過ぎない食事を心がけることが大切なのです。
脳の固形分の65%は脂質で,その組成の15%がDHAになります。脳は,身体の中でも特にDHAが多く蓄積される(必要な)臓器です。DHAは二重結合を多く持つ構造から「ゆらぎ」が生じ固まりにくく,細胞膜の柔軟性を高めるので,ホルモンや伝達物質の受け渡しがスムーズに行われます。そのため,脳内DHA量が減少すると脳機能の低下に繋がります。
このような影響が大きく出るのが,妊娠中の母親から児への胎盤を介した供給になります。母親の血中DHA量が少ないと児に十分供給することができず,DHA不足のまま出生することになります。そのような児からは,落ち着きがない,指先の微細運動スコアが低い,学習能の低下,ストレス耐性が弱く不安を感じやすい,などの報告があります。母親は,もともと保持しているDHAが少ないところに,胎児への供給が重なり,さらにDHAが減少するため,産後うつなどに発展しやすいと報告されています。
では,このような状態を予防するためには,いつ,どれくらい,どの脂肪酸が必要なのか?脳がもっとも成長する乳幼児期の影響をマウス新生仔や脂肪酸の組成を調整したいくつかの人工乳で人工哺育し,成長後の行動を観察しています。
かつては毎日食卓にお魚が出ていた日本でも,最近ではかなり食べる機会が減り,体内のDHAやEPAが不足していると言われています。オメガ6とオメガ3系脂肪酸のバランスを保つためにも,魚食の理想頻度は1週間に3回以上と言われています。
また,オメガ3系脂肪酸が減少すると「脳機能」以外でも不具合が出てきます.その様子をライフステージを通して検証しています。