2023年度ジェネプロ修了生であり、現在、食品生命科学科3年次の千田 理彩子さんの研究論文が、海外の電子ジャーナル「Anesthesia Research」に掲載されました。
論文題名は「Suppression of the Excitability of Nociceptive Secondary Sensory Neurons Following Systemic Administration of Astaxanthin in Rats(アスタキサンチンの静脈内投与によるラット侵害受容性2次ニューロンの興奮性の抑制について)」です。
学部学生、しかも3年次の書いた論文が海外のジャーナルに掲載されることは目覚ましい快挙であり、研究者として極めて高い能力を身に付けている証左です。
千田さんに感想を伺ったところ、第一声に「すごくうれしい!」と笑顔で答えてくれました。
高校生の頃から理系志望で、「何か自分の成果を残せることがしたい。」という強い意志があった千田さんにとって、今回の功績はその想いが実った結果です。
幼い頃から何事も継続して“やり抜く”力があったと自負する千田さんですが、論文を書き上げるまでには、並々ならぬ努力の軌跡がありました。
オープンキャンパスでたまたま麻布出る杭のことを知り、「ぜひ早い段階から研究に携わりたい」との思いから、麻布大学への受験を決心したとのこと。入学後は麻布出る杭に入るために、苦手な科目については通常授業とは別に個別(補習)指導も利用しながら学業に励み、その甲斐あって、定められた基準を大幅に超える好成績で突破しました。
千田さんの学業成績は現在に至るまでトップクラスを維持しており、その実力は指導教員の武田 守 教授(生命・環境科学部 食品生命科学科)も目を見張るレベル。
「麻布出る杭があったから頑張れました。」
無事にジェネプロ学生になった千田さんは、1年次の必修科目「基礎生物学・同実習」で、感覚情報が体の中でどのような経路を通って脳に伝わっているのかを学んだことで、自身の体の中で情報伝達が起こっていたことに驚き、もっと神経機能の仕組みや作用機序などについて知りたいと思っていました。そこで、神経生理学や神経科学を扱う武田教授の研究プロジェクトへの参加を志望し、本格的な研究活動が始まることになりました。
武田教授は、受け持つ研究室所属学生を卒業後に世界に出しても恥ずかしくないように、学部生に対しても厳しく熱い指導をする、責任感の強い教員として有名です。
1年次のジェネプロ学生にも卒論学生と同様、まず英語論文を読むように指導します。英語論文は一般の英文と違って専門用語が多く、翻訳できても高度な内容であるため、読み慣れていないと1ページを解読するのに数時間も掛かる場合があり、英語が得意でない千田さんは大変苦労されたようでした。
ただ、武田教授の指導方法は熟慮されており、学生が途中で脱落することのないよう、普段の授業内容とリンクし、授業で学んだ知識が役立つ論文のみを課題として与える等、細かい配慮と工夫がなされているとのこと。
「学生に“達成感”を感じてもらえることを大切にしている。」
千田さんも、武田教授の行き届いた指導のおかげでやり抜くことができ、英語力も上がったと語っていました。
このほか、論文に適した図の描き方等、細かく厳しい指導を受けてきた千田さんでしたが、これが研究者として必要な心構えや所作につながり、1年次のうちから身に付けられたことに、麻布出る杭の大きな価値を感じるとのことでした。
また、質問のしやすい先輩の存在や、共に助け合い、切磋琢磨し合った同期のジェネプロ学生の存在も大きかったようです。研究室でのこうしたコミュニケーションは、学部学生のうちから社会人基礎力を身に付けることにもつながり、社会に出てから大いに役立ちます。武田教授自身も、研究室の先輩や同期の存在がコンピテンシーの向上やリテラシー教育に良い影響を与えると言います。
ジェネプロ研究プロジェクトは通常授業と両立できるように、無理のない範囲で自分のペースで活動できることが特徴の一つです。
千田さんも自分のペースで活動していましたが、研究に必要な実験は通常2~3時間掛かるため、春休みを利用するなどの時間調整が必要となりました。特に、武田教授の研究室では、原則、朝8時30分から遅くても17時まで、土日は休み、それ以外の時間での活動は認められていないため、より厳しい時間管理能力が求められます。
「一番大切なのは、決められた時間内に終わらせるスキル。先を見据えて行動できること。これを徹底して指導している。」
社会人でいえば、残業せずに就業時間内にどれだけ仕事をして成果を出すか、そのメリハリを武田教授は最も大切にしており、その魂を学生にも伝授しています。
この武田魂で鍛えられたおかげで、千田さんは趣味のピアノやアルバイトと両立しながら活動することができました。
また、1回の実験に懸ける心構えも変わったと言います。実験にはラットを使うとは言え、動物の大切な“いのち”を扱うことに変わりはありません。いのちの重みを意識しながら、動物に負担を掛けないよう、いかに短時間かつ最小限の作業で成果を出すか。日々の入念なシミュレーションをもって実験に備えられるようになったとのことです。
1年次からこうした数々の厳しい指導を乗り越えてきた千田さんについて、武田教授は「自分でテーマを決めて、計画し、仮説を立てて実験に取り組む。この一連の過程を自分の力でやり抜いていった。これは本当に凄い。」と高く評価しています。
今回の論文は、2025年3月に開催されるAPPW2025(第130回日本解剖学会/第102回日本生理学会/第98回日本薬理学会合同大会)でも発表される予定です。
また、千田さんも次のステップに進んでおり、引き続き武田教授の下で、今度は「痛覚過敏」に関する研究に取り組んでいるとのことです。
努力してやり抜き、進み続ける今後の千田さんの更なる成長に目が離せません。
武田先生の研究室では、食品に含まれる成分が痛みを緩和するかについて研究しています。私はサケを食べることが好きなので、サケやエビ、カニなどに含まれる赤色色素である「アスタキサンチン」という成分について研究することを選びました。
アスタキサンチンに関する論文、武田先生や過去の先輩の論文などを読んでいくと、アスタキサンチンを静脈内に投与することにより、痛みの伝達を抑制する仮説が生まれました。このことから、ラットの静脈内にアスタキサンチンを投与し、投与前後で刺激に対する反応にどれだけの変化があるか実験を行いました。
その結果、投与後10分で最大の抑制がみられ、投与後20分で元の反応に戻ることが確認できました。また、アスタキサンチンの濃度を変えて投与すると、濃度依存的に抑制率が変化することが確認できました。
そのため、仮説通り、アスタキサンチンの静脈内投与は、痛みの伝達を抑制するとの結論に至りました。
論文は、以下のリンクからどなたでもご覧いただけます。
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