2021年10月26日
引用“File:Japanese Wolf.jpg” by Momotarou2012 is licensed under CC BY-SA 3.0
この記事の作成者:
獣医学部動物応用科学科
菊水 健史
そもそも、ニホンオオカミって何?
日本のその昔、暗い森の中を歩いていると、後ろにそっと歩みを合わせ、目的地まで安全に連れて行ってくれるオオカミに出会うことがあったかもしれない。ニホンオオカミは、20世紀初頭に人間に絶滅させられるまで、何千年もの間、日本に生息していた小型のオオカミである。
現在、みなさんと一緒に生活しているイヌは、ハイイロオオカミの子孫である。しかし、イヌの祖先種となったハイイロオオカミがいつ、どこに生息していたかについては、長い間、論争の的となっていた。問題のひとつは、イヌの祖先種がすでに絶滅してしまった、ということにあった。
そこで登場したのがニホンオオカミ(Canis lupus hodophilax)である。日本の動物学史上最大の謎の1つとも言われているこの動物の起源は不明であり、どのような経路で日本にやってきたのかもわからない。2021年初めに発表されたニホンオオカミ1頭の遺骨の遺伝子解析では、長い間絶滅したと考えられていたシベリアオオカミの系統に近いことが判明した。
ほー、ニホンオオカミは貴重ですね。新しい発見があった!?
総合研究大学院大学の進化生物学者であり、愛犬家でもある寺井洋平博士らは、博物館の標本や、古い家の屋根にあった護身用の頭蓋骨など、9頭のニホンオオカミの全ゲノムを抽出し、塩基配列を決定した。また、柴犬などの人気犬種を含む11頭の日本犬のゲノムを解読した。これらの配列を、キツネ、コヨーテ、ディンゴなどのイヌ科動物、さらにはさまざまなオオカミ、現代の犬などと比較した。寺井博士らが進化系統樹を作成したところ、ニホンオオカミの系統を含む集団は、他のどの動物よりもイヌの系統に近いことがわかった。寺井博士は「姉妹のような関係です」と言う。
つまり、東アジアで消滅したハイイロオオカミの集団が、現代の犬の起源である可能性が見えてきた。犬に最も近いオオカミの集団、がニホンオオカミだったのだ。
え?ニホンオオカミはイヌの起源に近いの!?
さらに寺井博士らの研究チームは、ディンゴやニューギニア・シンギング・ドッグなどの比較的古いイヌや、現代の日本の犬種を含む東アジアのイヌが、ニホンオオカミとDNAの5%を共有していることを発見した。一方、ジャーマンシェパードやラブラドール・レトリーバーなどの西洋犬は、DNAの共有が少なかった。このことは、ユーラシア大陸のどこかで誕生したイヌが、その後に東アジア、さらには日本へ移動して、ニホンオオカミと交配したと推測できる。その後に東アジアのイヌがヨーロッパに向かったイヌと交配した。そのため、ヨーロッパ側のイヌには日本オオカミのDNAの混入が少なくなった。
ニホンオオカミのDNAが現代のイヌにも残っている。この遺伝子は何をしている?寺井博士らは、それらイヌに残っているニホンオオカミの4つの遺伝子のうち、1つは動物の暴食に関連するらしい。また、他の遺伝子がイヌの体や顔の形を変えた可能性もある。
絶滅したニホンオオカミ。彼らがイヌに残したものは何だったのか。そしてイヌの起源はどこにあったのか。今後の研究が俟たれる。
イヌにニホンオオカミの遺伝子が残っている、、不思議すぎます。次の結果も楽しみですね!