加瀨ちひろ(応用動物行動学)、豊田英人(動物行動学・獣医学:埼玉県こども動物自然公園 獣医師)、植竹勝治(応用動物管理学)
動物園の役割の一つに「種の保存」があります。アマミトゲネズミ(T. osimensis)は奄美大島にのみ生息する日本固有種であり、国の天然記念物指定種かつ絶滅危惧種です。
現在、環境省と日本動物園水族館協会(JAZA)が協力し、アマミトゲネズミの保全を目的とした飼育下繁殖に取り組んでいます。これまでに参画している複数の動物園で何度か繁殖に成功していますが、繁殖が思うように進まないケースもあり、繁殖成功のポイントを探ることが必要です。
そこで本プロジェクトでは基礎的知見の蓄積を目的に、埼玉県こども動物自然公園で飼育しているアマミトゲネズミを対象として、飼育下での行動特性を明らかにします。
このプロジェクトでは主に、ビデオカメラで撮影した飼育舎内のアマミトゲネズミの行動を観察することで、行動学的に動物の状態を評価します。実際には、約1×1.5×⾼さ2mの飼育部屋が5つあり、それぞれにビデオカメラが設置されています。5部屋×24時間分のデータを毎月10日分解析することで、活動リズムや季節的行動変化などを明らかにします。
また、バックヤードの視察や飼育担当者の方とのディスカッションを通じて、解析結果の解釈や今後の課題を整理します。
アマミトゲネズミの⽇周活動性とその季節変化に関しては、2019年12⽉〜2021年8⽉の⻑期間に渡るデータ解析を⾏うことで、⽇没前後に活動ピークがある夜⾏性型であること、⾏動は⽇照時間に影響を受けること、幼獣は徐々に成獣と同じ活動リズムになることなどが明らかになりました。
2021年3⽉には研究を実施させていただいている動物園の関係者に向けて、成果報告会も⾏いました。現在は、雌雄ペアの相性や繁殖成功と関連する⾏動指標を探る研究をしています。今後も引き続き⾏動特性を解析し、繁殖成功のポイントを探ります。